「なぁリーマス、ここなんだ!?」
「お菓子屋さんだよ。後でみんなで来ようね。」
「おう!」
嬉しそうに駆けて行く姿に子犬の姿が重なる。
テレビで見たことしかないけど、彼には日本犬の子犬のイメージがぴったりだ。色は勿論黒毛。
彼の頭の上で三角の小さい耳が動く姿を想像する。
イメージするとやっぱりぴったりで、思わず噴出す。
「・・・何笑ってんだ」
「いや、何でもないよ。」
ずっと口を開かなかったもう一匹の犬が怪訝そうにこちらを見る。
不機嫌なのは相変わらずのようだ。
むすりとした態度は昨年のシリウスを思い出させ、相変わらず警戒心が強いと感心を通り越して呆れさせられる。
「シリウスこそどうしたの。昨日からずっと皺寄せっぱなしじゃないか。」
「別に・・・」
「何でもないというなら少しは態度直したらどう?
君がずっと睨みっぱなしだからが怖がってるじゃないか。」
「俺だって好きで苛立ってるわけじゃねぇよ!アイツが・・・」
そこまでいい、言葉を詰まらせそっぽを向いてしまったシリウス。
今まで見たことのない様子に勘のようなもで何かを感じる。
もしかして、と声をかける前に先に駆けていったがボクを呼ぶ。
気付けばかなり距離が離れてしまっていた。
はぐれてノクターン横丁にでも入られたら困るから、今浮上した疑問はジェームズたちに報告することにして、の元に向かった。
おいでませダイアゴン横丁〜買い物編〜
「樫の木、ユニコーンの尾の毛。26センチ。」
渡された杖を受け取り、クルっと宙に円を描くように動かす。
途端に聞こえた破壊音。木製の椅子が宙に舞った。
それを見たオリバンダーさんは慌てて杖を奪うように取り、また部屋の奥へと姿を消した。
「・・・・・・なぁ、リーマスのときってこんなに時間掛かった?」
「ボクは3本目で決まったから時間は掛からなかったよ。シリウスは?」
「・・・6本目」
「やっぱりそれくらいだよなー・・・」
グルグルと肩を回しオリバンダーさんを待つ。
この前に行ったマダム・マルキンの洋装店で採寸してもらったためか、今沢山の杖を振っているせいか。なんか肩が変にこった。
オリバンダーさんが次の杖を持ってくる。
柊の木に東洋ドラゴンのたてがみ、25センチ。
受け取りクルリとまわす。今度は棚にそろえられていた杖が反対側の棚へ突撃した。
オリバンダーさんは杖を俺の手から取り、また部屋の奥に姿を消す。
今ので28本目。俺に合う杖は見つからない。
お陰で杖店は悲惨な有様だ。カウンターに椅子が突っ込み、花瓶の破片が壁に刺さり、飾ってあった額は天井に突き刺さっている。
これ魔法で直る範囲だよな・・・?弁償とか言われたらどうしよう・・・
内心ビクつきながら29本目の杖を持ってきたオリバンダーさんに視線を向ける。
見た手には杖ではなく白い布でグルグル巻きにされた四角いもの。
オリバンダーさんはそれをカウンターの無事な部分に置き、杖を一振りする。
布は勝手にはずれ、その下から現れた箱にぞわりと鳥肌がたった。
木箱に装飾はされてなくただ黒いだけ。
それだけで美しいんだけど、嫌な気持ち悪さもある。
「この杖はとても強力な魔力を持っているんじゃが、もしかしたら・・・」
黒い木箱の蓋が一人でに開く。
中に収められていたのも木箱と同じ真っ黒い杖。
恐ろしいとも思ったけど、手は自然に杖を掴むために伸びた。
指先で触れ何も起きないことを確認して、持ち上げる。
途端、部屋中に青い光が満ちた。
杖を握ったままその光景を呆然と見つめていると、何処からか声が響いた。
―――杖を振り下ろして―――
ワケも分からないまま、今は其の声を信じるしかない!と杖を振り下ろした。
光は消え、代わりに店内を埋め尽くしたのは・・・色とりどりの花。
うっわ、メルヘンな光景。
一瞬にして廃屋から花畑に変貌してしまった店内にまたも唖然とする。
あ、シリウスの頭に蝶がとまってる。呆然とした面とピンクに光る蝶をあわせると中々の破壊力だ。
「なんと・・・綺麗な杖か・・・・・・」
震えた声が俺を現実に戻す。
花畑を作った黒い杖をオリバンダーさんが涙ぐみながら見つめていた。
「とてもよいものを見せてもらった・・・。」
「いいものだなんて・・・・・・店破壊した上に花畑にしただけだし・・・」
「そうじゃな、店を壊されることはあっても綺麗にしてもらったことはないの。
そのお礼と言ってはなんじゃが、杖は差し上げよう。」
「ホント?!」
真っ黒な杖は他の杖と違い随分高価に見えるけど、タダという言葉になびかない庶民は居ない。
オリバンダーさんには悪い気はしたけど、ここは頂いておくことにする。
お礼を言って、先に出たリーマスとシリウスについてドアに向かう。
そういえばこの杖の材料聞いてなかったな・・・
「オリバンダーさん、この杖の材料って何?」
ドアの取っ手に手をかけ振り返り、片付けを始めた老人に聞く。
オリバンダーさんは迷った表情をしながらも、口を開き教えてくれた。
「・・・・・・その杖はこの店ができたばかりのある朝、ドアの前に置いてあったんじゃ。
調べても何処の誰が作ったのか、何が材料なのかさっぱりじゃった。
ただ一つ、手がかりだったものはその杖の箱を拾ったとき消えてしまった。」
「手がかり・・・?」
「青い、とても綺麗な羽じゃった。君が杖を手にしたとき店中に溢れたあの光の色・・・
もしかしたらその杖の中にもあの青い羽が入っているのかもしれないの。
・・・さぁ友達が待っている。早く行ってあげなさい。」
老人特有の皺のある顔がくしゃりと歪み微笑んだ。
何となくそう感じただけだけど、オリバンダーさんはきっとまだ知ってることがある。
話を打ち切ったのはこれ以上は俺が聞いちゃいけないものなんだろう。
頭を下げお礼を言って、先に行ったリーマスとシリウスの元に走った。
「・・・・・・さて、」
東洋の新しい魔法使いの後姿を見送った後、オリバンダーは杖を一振りし片付けを魔法に任せ自室へと向かった。
ドアを開け窓に目をやると赤い美しい鳥が縁に居た。
フォークスと名付けられた不死鳥は丸く黒い瞳で老人をじっと見つめる。
少し待ってくれ。老人は言葉をかけ、紙と羽ペンを手にとり手紙を書き始めた。
用件のみ綴られた短い手紙は不死鳥が差し出した右足に括りつけられる。
不死鳥は一鳴きすると真紅の羽を広げ主人の下へ飛び立った。
オリバンダーはそれを見送りながら思い出していた。
あの黒い杖が店の前に置かれたのは創業時と、十数年前に1度。
持ち主を失くした杖が、次の主を選ぶために・・・いや待つためにこの店に戻ってきたようだった。
不気味で奇妙な、しかし美しい黒い杖
杖に選ばれれば、それがどんな杖でも魔法使いに拒否権はない。
「(彼が・・・あの子のようにならなければよいのじゃが・・・・・・)」
オリバンダー老人の銀色に輝く瞳に思い出の幻が描かれる。
それは黒い夜の色の髪を背中の中ほどまで伸ばした、可愛らしい魔女の姿だった。