ホグワーツに来てから3週間が過ぎた。
1年分の勉強の遅れを埋めるのは大変だけど、学年トップのジェームズや教え方の上手いリーマスのお陰で何とかなってる。
広い迷路のような学校内の教室の場所は散々迷ってコツを掴んだというピーターが、抜け道や近道はシリウスが教えてくれて、今のところ迷うことは少ない。
『少ない』と言うのは、何回かはあるわけで・・・今、正にその状況だ。
Lilium'Casa Blanca'
大広間から図書室へ行って魔法史の教室に移動するだけだったから、迷わないかと心配するみんなの付き添いを断ったのは失敗した・・・!
そう走りながら後悔しても時間は変わらず過ぎていく。
『次の角を右に。そうしたら暫く真っ直ぐだよ。』
「(ありがとう)」
頭の中に響く声。
杖選びの時に聞こえた声はあれからも聞こえる。
悪いことをするわけでもなく、むしろ俺を助けてくれているからこの事は誰にも言っていない。
声の言ったとおりに見えた十字路を右に曲がり、長い廊下を真っ直ぐ走る。
『・・・あ、その角、止まって』
「え?ちょ・・・う、わぁ!?」
「きゃ、・・・っ!」
止まれと言われても急に止まれず、角から現れた人とぶつかってしまう。女の子の声だ。
ぶつかった拍子に2人共倒れ、しりもちをつく。痛かったけど自分より女の子の方が気になって立ち上がり声をかけた。
「大丈夫?」
「え、えぇ・・・・・・あら?貴方、ミスター・ね。」
「へ?何で俺の名前・・・?」
「ホグワーツ中が知っているわ。東洋人の編入生なんて珍しい・・・いえ、初めてですもの。」
女の子は差し出した俺の手をとり立ち上がる。
怪我はしていないようで、にこりと笑いながらこっちを見た。
さらりと流れる濃い赤毛の髪にアーモンド型の輝く緑色の瞳。
こっちの世界に来てから忘れかけていた、この世界の主人公の特徴を思い出し口から名前が零れる。
「リリー・エバンズ?」
「あら、私の名前・・・知っているの?」
こっちの世界に来てすぐのときのジェームズたちと同じような反応。
同じ寮と言っても機会がなければ生徒同士、名前を知る機会は中々ない。
どう言い訳しようか迷っていると、慌てている俺の様子を見てリリーが笑う。
「意地の悪いこと言って悪かったわ。多分ポッターたちから聞いていたんでしょう?
あの人たち・・・私がスリザリンのこと気にかけているからって、貴方に変なこと吹き込んでいないかしら。」
後半はむすっとした声色で、ジェームズたちがよく思われていないことが感じ取れる。
リリーは確か・・・スネイプと仲がよかったんだっけ?
スリザリンが大嫌いなジェームズ、シリウスにとっては気に食わないんだろうなぁ・・・
廊下に響く鐘の音。
そういえば魔法史の授業に遅刻しそうで走ってたんだよな・・・っ!
「わ、わ・・・っ!遅刻だ!!」
「そういえばそんな時間ね。でもいいものがあるわ。」
リリーは俺とぶつかった拍子に落としてしまった何かを拾い始める。
授業に使う用紙や教材らしい。用紙は生徒分あって、女の子が1人で持つのは重いだろう。
俺も一緒に拾って半分を持つ。
「優しいミスター・は、先生に重い教材運びを頼まれた女の子を手伝って遅れてしまった。
っていうのでどうかしら?」
リリーは悪戯っぽく笑う。
俺は言われたことに驚いて目をぱちくりさせる。真面目そうなリリーがそんなことを言うとは思わなかった。
「うん、そのほうがいいかな。ありがとう。」
「いいえ。貴方が理由なく遅刻すればグリフィンドール寮が減点されるから、のってくれるほうがありがたいわ。
減らすのはポッター達だけで十分よ。」
「そういうことか。」
生活態度や勉強でいいことをすれば加算され、悪いことをすれば減点される寮の得点。
俺がこっちに来てから1度だけ悪戯の逃走中ピーターが捕まり、点数も結構引かれた。
その結果トップだったグリフィンドール寮は2位に。1位はスリザリンになってしまった。
大嫌いなスリザリンに寮杯を渡したくないシリウスやジェームズは、加算されやすい勉強で得点を取り戻そうと頑張ってる。
俺はリリーの持っていた縦長の教材も預かり、一緒に魔法史の教室に向かい歩き出す。
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私はリリー・エバンズ。
リリーって呼んで。ファミリーネームで呼ばれるのは苦手なの。
ポッターたちからどう聞いているか知らないけど、普通のグリフィンドール生よ。」
「俺は・。俺もでいいよ。
魔法やホグワーツのことはまだわからないことが多いから、聞いてもいいかな?」
「えぇ。私でよければいくらでも。どうせあの人たちはまともなことを教えていないでしょうから。」
「あー・・・うん、そればっかりじゃないけど、否定は出来ないかな・・・?」
「やっぱり。まったく・・・」
ジェームズ達に対する心証は随分と悪いものらしい。
半分呆れたような、怒っているような声に苦笑いしながら、リリーからジェームズたちとは違った魔法界の話を聞く。
教室まであと少しのところからだったからほんの数分の事だったけど、また話そうと約束した。
リリーの目論見どおり遅刻のことは言及されず、先生に指示され用紙を配り終わった後シリウスたちの座っている席の側に座る。
すると隣にいたジェームズが小声で俺に詰め寄った。
「何で君、・・・何時の間にリリーと仲良くなったんだい?!」
「いつの間にって・・・ついさっき?教室来る前にぶつかって・・・」
「あぁぁ!こんなことが起こるってわかってたら君と一緒に図書室に行っていたのに!!」
「ジェームズ・・・落ち着いて・・・」
「ピーター、これが落ち着いていられるかい?」
全て小声だったけど、大半が寝てしまっているこの授業ではあまり意味がない。
先生がじろりとこっちをみたことでジェームズは落ち着きを取り戻したけど、突然のことで俺は呆然としたままだ。
そんな俺に、後ろの席に座っていたシリウスがこっそり耳打ちする。
「ジェームズはリリーに片思いしてるんだよ」
「うん、それは今よくわかった・・・リリーのことだといつもああなの?」
「話しかけても中々相手にしてもらえなくてな。今は兎に角仲良くなりたいんだと。」
シリウスは呆れ顔でピーターに語りかけているジェームズを見る。
ジェームズのこの調子じゃ、これから発展するのはまだ時間が掛かるだろう。
熱くリリーの魅力について語り始めたジェームズを見て大きくため息をついた。