「そういえば今日は君の誕生日と聞いたよ黒子君」
「えぇ、確かにそうですが。」
カリカリとノートに黒い足跡を残すシャーペンの音が止む。何人かが一斉に使える大きなテーブルから目をあげるとがこちらをみていた。
黒子が手を止めたためにできた静寂にくつくつと笑い空気を揺らした。
寒くはないのだろうか。昨日から上陸している寒波の影響で今日は雪まで降っている。
暖房が効いている図書室でも窓のそばにブレザーもセーターも着用しないで居れば身体が冷えるのではないのか。
窓側に設置された背の低い本棚に腰掛け窓ガラスを背に読書をしていた、帝光の制服の水色のシャツだけを着た彼の顔色は白く見えた。
「バスケ部の仲間からは何かプレゼントを貰えたかい?」
「いえ。」
「それはそれは、淋しいね。
共に汗を流し勝利をつかんでいる仲間に対して彼らはそんなにも素っ気ないのか。」
「まずボクの誕生日を知らないでしょうし、知っていたとしても期末テストで部活停止期間ですからチームメイトとは同じ学校といえど会う機会が中々ないんです。
あとボクの気持ちとしては期末テスト真っ只中の今は他人を祝うことに気を取られず勉学に励んで欲しいです。」
「誰とは言わないが浅黒いバスケバカ少年は特にそうするべきだろうね。
男子の誕生日事情などこんなものか。誰にも祝ってもらえないなんて哀しいねぇ…」
「女性ならプレゼントを用意して何が何でも時間を作り渡すのでしょうね。」
「あぁだろうね。しかし、何が何でも渡したい気分の男子が居ることもある。
君の目の前に、とかね。」
パタンと赤い表紙の本を閉じは黒子ににっこりと笑いかける。
「テストに関して心配がない君の勉強を見るためにわざわざ放課後の図書館に呼び出したんだ。何が何でも、だろ。
そういうわけだ。お誕生日おめでとう黒子君。」
「それは、ありがとうございます。」
「しかし問題が一つ。お祝いするには足りないものがあるんだ。」
は棚から降り黒子が座っている席に近づくとその隣に腰掛けた。椅子の上でなく、机にだ。
お行儀が悪いですとか、椅子はたくさんあるからそちらに座ればいいでしょう。と言う言葉は飲み込んだ。
が気にする様子なく話し始めたからだ。
「毎年恒例の年始の臨時収入があってね。いや恒例であれば定期収入か。
資金は手元に十分にある。だが時間がなかった。黒子君の誕生日を知ったのが昨晩だったからね。
それで僕は考えたんだ、君に現時点であげれるプレゼントを。」
「帰り道でバニラシェイクを奢ってもらえればボクには十分なんですが。」
「それではあまりに味がない。あぁ、バニラ味はあるのか。
とにかく僕は考えた。そして結論はこれだ。」
両手のひらと腕を広げは何かを迎え入れるような格好を黒子に向けした。
突然わけがわからない事をした彼の手のひらを黒子はとりあえず見た。何かを持っているわけではなかった。
どうしたのか。を見上げれば彼はまたらくつくつと笑った。
「よくあるだろう?プレゼントは僕自身、というやつだ。
これならお金があって時間がなくても用意できるだろう?」
「…先輩の冗談にも慣れました。丁重にお断りします。」
「おや、こんなに良物件を拒否するとは勿体無いね。」
心底残念だ、という表情をする。黒子はため息を一つ漏らし時間を有効活用することにした。
やりかけていた問題をもう一度見直し解答を記入する。即座にが指摘した。
「あぁ、これはよくある引っ掛けさ。前の章題を見るとわかるんだけどね。
ちなみにここは去年も一昨年も出題されたものだから今年も出る筈だよ。あの先生は毎年問題を少し変えるだけのテストを作るから。」
指を指した部分を見ると確かにそうだった。
消しゴムを筆箱から取り出して解答欄にシャープペンシルの芯で刻まれた跡を消す。
再び記入をしていると、ずっと黒子の様子を見ていたが微笑みながら言った。
「あと、僕がプレゼントというのは本当のことだよ。」
「は……?」
何を言っているんだこの人は。そう黒子が思い顔を上げた瞬間だった。
唇に温もりが宿る。黒子自身がどうかしたわけでなく、他人から与えられた温もりだ。
口づけ。接吻。キス。
黒子の頭には辞書で引いたようにその行為の名称が並んだ。
数秒すると顔の距離が離れて行きの変わらない笑顔が見えた。
彼はそれが至極当たり前の台詞のように黒子に告げる。
「僕を君のものにしてくれるよねテツヤ君。」
黒子は事態に頭が付いていかず呆然とする。
それはまるで、
それはまるで呪いのような
「………はい」
こくりと頷いた黒子には満足そうに笑った。
「好いている相手の誕生は何が何でも祝いたいものだろう?」
(その呪文はまじない?のろい?)