シーナは時空儀を見ていた。

先祖が残した言い伝えと近頃の異世界の干渉。

起こると予想されている事はもう直ぐ・・・まだ若い彼女の心は不安と恐れで占められた。

リィン・・・

鈴のような音が鳴り、時空儀の青い球体が波打つ。

時の世界、ディアルガの世界に何かあったのだ。

シーナは部屋を出て外の神殿のせり出した石畳の上に立った。

そこから見えたのはディアルガがこちらの世界にくるために空に開けた穴。

時の世界からディアルガが躍り出る。青い四肢が空を駆けた。

曲線を描くようにして駆けるディアルガの首に、何かが居るのをシーナは見つける。





「こ、こんにちは・・・」





それは一人の少年。

シーナは神と呼ばれしポケモンが、背中に人を乗せ駆ける姿に驚き、唖然とした表情でみた。










住めば都










ーッ!森にいこうぜー!!」

「おーぅ。ここの作業終わったらいくから、先行ってろー!」

「早くきてねーっ!」





元気な兄妹を見送り、トウモロコシが沢山入っている収穫用の篭を地面に置く。

こっちの世界に来てから早3週間。豊かな自然に囲まれたミチーナという町での生活にも慣れてきた。

農作業も俺の肌に合っているらしい。

町の人も何処の誰だか分からないような俺を優しく迎え入れてくれた。





君、ここはもういいからあの子たちの相手をしてやってくれ。」

「はい。じゃあ行ってきます。」





カンタとカコのお父さんで俺が働いてる畑の主人のおじさんが、小麦に焼けた人当たりのよい笑顔で言った。

仕事の終わりを告げられた俺はトウモロコシが入った篭をトラクターの荷台に乗せ、カンタとカコを追いかける。

駆ける俺の背中をおじさんが笑って見送った。















「でな、アリアドスの巣があるのに気付かなかったカンタが引っかかってさ。

 その直ぐ後に餌が掛かったと思ってきたアリアドスがすっごいでかくて、これはまずいって俺もカコも大慌てで巣から引き剥がして大変だっだんだ。」

『そうか。この辺りの魔獣はまだ穏やかだが、攻撃的なものもいる。気を付けろ。』

「わかってるって。ディアは心配性だな。」





昼間の暑さも去り、陽が沈みかけた涼しい夕方。

岩の上に作られた大きな神殿跡を見上げれる湖の畔に、俺とディアルガは居た。

ここで夕食を食べながら、その日あった出来事を話すのがいつの間にか日課になっていた。





「トウモロコシ食う?」

『いや遠慮しておこう。我が食べればの分がなくなってしまう。』

「ディアの口でかいもんな。」





俺が笑うとディアも笑う。

顔は相変わらず・・・ほんのちょっとだけ怖いんだけど、瞳の色が優しく揺らぐ。

俺がお世話になっているシーナは、心を見せ合うことによってディアの事が分かるというが、瞳の僅かな変化を読み取れるのはきっと俺だけだろう。ちょっとした自慢。





この世界に来てからディアは毎日俺の様子を見に来てくれる。

ヒトのいる世界、ミチーナにいるとしてもやっぱり違う世界に住む人間。何が起こるのか予測できないからだという。

ディアは聞けば色んなことを教えてくれる。

人は見かけによらないというが、それはポケモンにも当て嵌まるんだな、と感心しながらもぎ立てのトウモロコシにかぶりついた。





、今日はお前の世界の話を聞かせてくれ』

「いいけど。でも面白くないよ。」





何か面白い話はあったか。少し前のことでも随分前の思い出のようだった。

一番簡単に引き出せたのは、こっちの世界にくる直前までやってた陸上のことだった。





「俺勉強はだめだけど運動神経はよくて、向こうでは陸上部やってたんだ。

 陸上っていうのは走るスピードや跳ぶ距離とか競うスポーツな。

 俺はまだ1年だからレギュラーになれないけど、来年は長距離走で部内1位とってレギュラーになってやるんだ。

 部活のコーチは近所の兄さんで、典型的な熱血コーチ。熱血すぎてよく部員から文句言われてたよ。

 昔からの知り合いってことでいつの間にか間に立たされる役目になってて、それがまた大変で・・・・・・」




陸上は好きだ。走ることは小さい頃から好きだし、上下関係はあるけど先輩はいい人たちで、友達は面白いやつばっかりで。

そこから学校の話や友達の春幸の話、思い出したことを次々とディアに話した。

ディアはまとまらない俺の話をじっと聞いていた。





話がひと段落した時、日はすっかり沈み空は藍色に染まっていた。

ディアに似たその色がこっちの世界に来てから好きになった。

夜になるとほぼ同時にコトロックやホーホーが鳴き出す。湖面ではバルビートとイルミーゼが尾を光らせ踊るように飛び回った。

・・・・・・元の世界に帰れない不安や、まだ消滅する可能性があることは怖い。

だけど向こうの世界では決して見ることが出来なかった綺麗な光景は、こっちの世界に来てよかったと思える。





「・・・・・・ディア、もたれてもいい?」

『あぁ。』





沢山話して疲れた俺は隣に伏せるディアの折り曲げた左前足に背中を預け、満腹感と疲労感に身を委ね目を閉じた。

こうやって落ち着いていられるのもディアが心配して支えてくれているからだ。

時を刻むというディアの心音もまた心地よくて、言い表せれない安心感に満たされた。