夜、ミチーナはあちらこちらで祝杯があがり、いつもなら静かになるはずの町が賑わっていた。
ミチーナの誰もが知っていた言い伝え。アルセウスの裁きが過去が変わったことにより回避されたからだ。
歓び騒ぐみんなの輪から気付かれないようそっと抜ける。
足は湖の畔へと向かった。
縁は異なもの味なもの
森はいつもの姿に戻っていた。ホーホーやコトロックが鳴き、バルビートとイルミーゼが光ながら踊る。
湖面は水の竜巻を上げた時のことを覚えていないように、静かに波打っていた。
「ディア」
いつもの場所。そこにディアは人の姿で待っていた。
声をかけるとディアは湖から目を離し、俺を見た。
俺はディアの右隣に腰掛ける。夏の夜の風が静かに凪ぐ。
「あの時、何を聞こうとしたのだ。」
あの時とは、アルセウスとの戦いの最中の事だ。
倒れていたディアに聞こえているとは思っていなかったのでちょっとびっくりする。
あれから何時間も経ち、正直今迷っている。
ディアはきっと応えてくれる。けど、本当に聞いてもいいのか?
ちらりと様子を見ると、ディアは俺を見つめながらまっていた。誤魔化しは効かない、と言いたげに。
俺は意を決して口を開いた。
「・・・・・・夕立の日、ディアは・・・その、俺に・・・キスしたよな?
それってどういう意味でした?」
「・・・・・・」
ディアは何も応えなかった。
あれは俺の勘違いだったのか。恥ずかしくて俯いた。
ふわりと触れる温もり。ディアの手が俺の顔を上げさせ、今度はしっかりとキスをした。
「・・・・・・涙を流すを愛しいと思った。
魔獣である私がヒトに対して持つ感情ではない。だが、涙を流すを見た時から、お前の事を愛しく想っていた。」
「・・・最初から、ってこと?」
「あぁ。」
「・・・・・・」
臆面もなく、よくスラスラとそんなことを言えるものだ。
思ってもみなかったことを知ってしまい、顔が熱を持つ。
「お前はどう思うのだ?」
今度は俺がディアの言葉に応える番になっていた。
口の中はからからに乾いていた。
そのせいでゆっくりと、短くなってしまうが、ディアの言葉に応える。
「ディアが、好きだ」
夏風が駆け抜けた。
それに煽られたのか俺の感情が湧き上がり、雫になって零れる。
ディアはずっと頬に触れていた右手の親指で擦り、反対側を舌で拭った。
顔が離れ見えた表情はいつもの仏頂面じゃなく、優しく緩んだ笑顔。
初めて見た、本当に嬉しそうな顔におかしくて笑う。
「何がおかしい。」
「わかんない。ただ嬉しそうだなって。」
「嬉しいに決まっている。も同じ想いだということが分かったからな。」
「俺、気持ち悪がられて、嫌われたらどうしようと思った。」
ディアは雄で俺は男。
嫌われていないとはわかっていたけど、友愛でも家族愛でもない愛情を抱かれていて。
キスの事だって勘違いだったら、自惚れるのも甚だしいというものだ。
言うとディアは眉間に皺を寄せ、理解できない。と言いたげに見てくる。
「私がを嫌う訳がないだろう。愛しているというのに。」
「だああぁぁ!!何回もいうな!恥ずかしいっ!!」
「何故だ?愛しいと思う物に愛していると伝え何が恥ずかしいというのだ。」
「言われたこと無いし、ディアは臆面なく真顔でいうからなんか恥ずかしい!!」
「?よくわからんが・・・要は言われ慣れればよいのだな。」
ディアがまた笑う。今度は不敵な笑みだ。
優しいとばかり思っていたけど本性は違うらしい。
またも思いがけずに知ってしまった本性に戸惑っているとディアが俺を抱き締める。
「、愛している。」
「・・・・・・うん。」
ゆっくりと大きな背に腕を回す。
心做しか、ディアの正確に時を刻んでいた心音が、早くなっている気がした。