ディアと恋人・・・という関係になって約2週間。

オレ達の関係は大きく変化することなく、湖の畔でご飯を食べながら話しをする毎日。

・・・1つだけ変わったことは、家に帰るときキスをするようになったこと。

キスをするのはまだ慣れない。でもキスをした後のディアの優しい笑顔が好きだから嫌じゃなかった。





手伝い程度だった農作業も板につき、順風満帆・・・といいたいけど、そうはいかなかった。

胸は焼けるように熱くなり、何も入っていない胃から胃液が逆流する。

タイムリミットが近づいているようだった。










合わせ物は離れ物










夏の暑さに秋風が混じるようになった。

こっちの世界で感じる初めての季節の変わり目だ。

青々と茂っていた夏野菜が薄く色落ち、秋の収穫物が目立つようになった。

すっかり畑仕事に慣れ、収穫する楽しみを知った俺はどの野菜が時期なのか見分けれるようにもなっていた。

森はまだ力強い緑が広がっているけど、もう少しすれば高い所から紅葉が始まるだろう。





「顔色が悪いから今日は手伝わなくていいよ。」





心配そうに笑うおじさんの顔が思い浮かぶ。

畑の影にある水道の蛇口から直接水を口に含み、中に残っていた胃液を吐き捨てる。

俺が生活に慣れていくと同時に、身体は世界から拒絶されていっているのだ。

5日ほど前から頭痛が酷く、吐き気がし、食欲はなくなってきている。

おじさんたちには心配をかけないようにとしていたのにもう無理だろう。

ふらふらと覚束ない足取りで歩き出す。

向かった先は神殿の見える湖の畔。ディアのところだった。















湖には人の姿もポケモンの姿もなかった。

畔に仰向けになって寝転がる。空は少し茜色に染まりかけていた。

風が身体を撫ぜていくのが心地よくて目を閉じる。

ひやり、と額に冷たい何かが置かれた。





「ディア・・・?」

、熱がある。」





少しだけ瞼を上げると心配そうに見つめてくる赤い瞳と目があった。人間の姿になったディアがオレの額に手を当てているのだ。

ひんやりとした体温が気持ちいい。少し楽になった気がした。





「ちょっと疲れただけだよ。」

「・・・私を誤魔化せれると思っているのか?」

「無理、だよなー・・・・・・・・・なあ、オレは消えるんだろ。」





軽く笑ってから真面目な声色で言う。訊ねるんじゃなくて、確認。

一拍置いてからコクリとうなずいたディアは、苦しそうに眉を寄せながら続けた。

何、だろう。ディアを見上げながら続きを待つ。






「・・・あぁ。

 ・・・・・・・・・私はお前に告げていないことがある。

 お前の世界に帰るための歪が、現れた。」

「・・・っ!?本当か!?」





跳ね起きると頭がぐらりと揺れる。ディアに背中を支えられて倒れることはなかった。

ありがとうと一言告げその顔を見る。表情は曇ったまま。

心配をかけてしまったのかと思ったけど、何か様子が違う・・・





「ディア・・・?」

「・・・この歪はがこちらの世界に来たときと同じ、一度通ると閉じてしまう。

 つまり・・・、」





その続きは言われなくても分かった。

歪が閉じればこっちの世界の人と二度と会うことが出来ない。

カンタ、カコ、シーナ、ケビン・・・そして





「ディアと、二度と会えなくなるってことか・・・?」





話すことも触れることもできない。

交じり合うはずのなかった世界の、交じり合うはずのなかった元の関係に戻るんだ。

歪む世界。目に水がたまり涙となって零れていった。

みんなを、ディアを好きだと思う分。涙はどんどん零れていく。





「そうだ。」

「そんなの嫌だ!みんなと・・・ディアともう会えないなんて・・・

 だったら、元の世界に戻りたくない・・・っ!」

・・・このままだとお前は消滅する。私はそれを望まない。

 お前と離別することは辛いが、お前を失うことになるのは嫌だ。」





服にしがみ付き年甲斐もなく泣きじゃくるオレをディアの手が優しくなでる。

それがさらに涙を誘い、どこから出てくるのかわからないくらいの水が目から流れていく。

全く止まる気配のない涙を獣のようにディアの舌が拭う。

そして唇に触れるだけのキス。ディアはキスが好きだな。笑いが誘われた。





。会えなくても私はお前を愛している。」

「・・・・・・うん。オレもディアのこと好きだよ・・・」

「同じ時を生きられなくとも、私のその気持ちは変わるこはない。

 だから、頼む。元の世界に帰り、生きて欲しい。」





ぐすりと鼻をすする。真正面から見つめる赤い瞳。

ディアの気持ちは痛いほど伝わってきて、これ以上我侭をいえないと分かった。





「うん・・・帰る。元の世界に・・・」

「ありがとう」





いつか離れなきゃいけないとわかっていたけど。

今は、離れないようお互いに強く抱き締めあった。