僕の母親は人間に『化け狐』と呼ばれる狐だったらしい。










02










母親は人間の姿になれた。

じいちゃんの奥さん、つまり僕のばあちゃんに当たる狐が人の血を引いていたようだ。

母親は大きくなると、人間と狐の姿どちらにも自由になれるようになった。

それをうまく使い分け母親は人里に下り人間と遊んでいたと聞いた。

その人里で特に仲良くなった人間が僕の父親だった。

父親は普通の人間だったらしい。

母親が狐であることを明かしても、それを気にしなかったのは普通とは言えないと僕でも思う。

成長した二人は恋に落ち、程なくして母親は僕を腹に宿した。

数か月後。父親は山で事故に遭い死んだ。

母親は悲しみ生きる気力を失くした。だけど腹に宿った僕がいたから頑張って生きてくれた。

僕を産み乳のみ期間を終えると、母親はじいちゃんに僕を預け、あっと言う間に憔悴しきって死んでしまった。

僕はじいちゃんの元できつねこどもとして育つことになった。





僕は春の季節に生まれた。

同じ時期に生まれたきつねこどもたちは夏になると巣立っていった。

僕はというとまともに走ることもできず、まだまだ狩りなんて出来なかった。じいちゃんにご飯を貰わないと生きていけなかった。

母親は普通の狐と同じ速さで成長したから、他のきつねこどもと違いゆっくり成長していた僕にじいちゃんは少し戸惑っていたと後から聞いた。

僕は人間の血が濃く入っていたからゆっくり成長したんだろう、と言っていた。

一年後。今も僕はまだきつねこどものままだった。



















ぷるる、と頭を振る。ばさばさと髪が音を立てる。

人間の姿になった僕に男の子は驚いたようだった。

じいちゃんが男の子に「この仔はきつねこどもだ。」と紹介した。

理解したのか男の子は僕を見つめる。ずっと見られていると、体中がこそばゆくなってむずむずした。

じいちゃんが立って山の奥に向って行く。男の子はハッと気付いたように身体を揺らし、じいちゃんに着いて木の根の山を駆けあがってきた。

ずっと男の子と呼ぶのは呼び辛い。隣を通り過ぎようとした時に声を掛けた。





「おなまえ、なんていうの?ぼくは、『』っていうの」

「…『雨』」





ポツリと、どこにも向けていないような声量で告げられる。



空から降ってくる水と同じ音の名。

僕の隣で一度足を止めた雨は、木の根を蹴ってじいちゃんと一緒に山の奥へと向かった。

僕は家から遠くにはまだいっちゃいけないと、先にじいちゃんから言われていたのでここでお留守番だ。

二人が去ってしまった後、何もすることがなくなってしまった僕はまた蝶々を追う事にした。















アカギツネの『先生』を追いながら雨は先ほどあった出来事を思い出す。

先生の孫だという仔ぎつね。

短い鼻づらとふわふわとした毛を持った獣から、5歳くらいの赤毛の子供に変化した時は目を疑った。

自分や姉の雪と同じく獣と人間の姿を持つ存在に出会ったのは初めての事だ。

先生と供に行動するようになってから驚く事にはたくさん出会ったが、今日ほど驚くことは後にも先にもないだろう。



胸の中でその名を噛みしめるように呟く。

今日は彼の事でいっぱいで、山の事は頭に入りそうにない。

雨はため息をついた。